天然ウランはウラン238(99.3%)、ウラン235(0.7%)、ウラン234(微量)で構成されている。 ウラン235は天然放射性同位体である。 軽水炉ではウラン235を2〜4%に高めた燃料を用いる。 高速増殖炉ではウラン235もしくはプルトニウムを16〜21%含む燃料を用いる。 ウランは濃縮する時に、ガス化し、遠心分離機にかける。 そのため気化しやすい6フッ化ウランを用いる。 それに対し、燃料は高温でも固体であり扱いが簡単な酸化物を用いる。 このため、フッ化物への「転換」や酸化物への「再転換」の作業が必要であり、 これを行う工場を転換工場と呼ぶ。 事故を起こしたJCOの工場ははこの転換工場のひとつである。 事故を起こしたときは高速増殖炉「常陽」に用いるための、 ウラン235が18.8%含まれるウランを再転換する作業のうち、 精製の段階であった。
酸化物ウランは水に不溶で酸に可溶であるため、硝酸に溶かして精製する。 酸化物ウラン(主成分8酸化3ウラン)を硝酸に溶かし、硝酸ウラニルとする。 硝酸に溶けない不純物を除き、アンモニアをいれ中和する。 中和するとウラニルイオンは沈殿し、精製された酸化物ウランとなる。 この沈殿の過程で臨界は起こったと考えられている。
ウラン235に中性子が吸収されると、ウラン236が作られる。 ウラン236は不安定同位体であり、すぐにいろいろな核に分裂する。 このとき2〜3個の中性子が生成される。 中性子がウランに吸収される割合は、ウランの量、中性子のエネルギーなどに依り、 生成される中性子のほうが消費される中性子と同じになることを臨界とよび、 そのときのウランの量を臨界量と呼ぶ。 ウラン235からでる中性子は2MeV程度であるが、 これはちょうどウラン238の共鳴吸収領域にあたる。 ウラン238は中性子を吸収しても一部がプルトニウム239に変わるだけで中性子を放出しない。 中性子の速度を下げるとウラン235に吸収される中性子の割合がふえ、 臨界がおきやすくなる。
ウラン235から出た中性子は周囲の原子に衝突するが、特に水素の原子核に衝突した場合、 質量比がほぼ1なので、最もたくさんのエネルギーを失う。 水などの媒質と何度も衝突し、媒質と熱平衡になった中性子を熱中性子という。 熱中性子は高い確率でウラン235に吸収され、さらに中性子を生み出すことになる。 この事故では、ウランが水溶液であり、また容器が2重構造で、 間に冷却水が流れていたことが反応を促進させた。 水素は中性子を大きい角度で散乱するため、 容器の内部に中性子を保持しやすいことも、中性子の吸収率を上げた原因である。
溶液では臨界量が小さくなるため、精製の過程では臨界にならないように工夫がしてある。 溶解や沈殿の際には5%以下のウラン溶液の場合はウランの量で16kg以下、 16〜20%の時には2.4kg以下と定められている。 また溶液は細長い容器に入れることになっている。これは中性子の吸収率を下げることになる。 しかし、残念ながら今回の事件ではこれらの規定、設備を無視し、 18.8%のウラン16kgを沈殿槽に集めてしまった結果、核分裂反応が臨界を越えてしまった。
こういった作業の過程で臨界を防止するには質量制限法と形状制限法の2種がある。 質量制限はウランの量を制限して臨界を防ぐ。 形状制限法は装置の形状を工夫することで臨界を防ぐ。 質量制限法は作業者のミスで臨界を招くので、通常は両方をあわせて用いるが、 この工場では、低濃度のウランの精製と同じ設備を共有しているため、 形状制限を課していなかった。
作業者の初歩的ミスが直接の原因であるが、 このようなミスを誘発する工場の体制、会社、国のやり方、システムを もう一度見直さなくてはいけないようだ。